以心会

逆流性食道炎

名誉院長:山崎雅彦

当院における胃食道逆流症の現状


ヘリコバクター. ピロリ(以下H.P 菌)という細菌が胃粘膜に寄生していることが胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、胃がんの原因ということが分かり、H.P 菌の除菌が広く行われるようになりました。それにともないH.P 菌の除菌では治療できない胃食道逆流症(以下GERD)が問題視されるようになり治療ガイドラインも作成されており、昨今ではTV のCM にも登場するようになりました。上部内視鏡〈胃カメラ〉検査を多数おこなっている当院でも当然、多数のGERD の患者さんが来院されます。今回は当院でのGERD の現状についてお伝えし、GERD とどう向き合っていくかの参考にしていただければよいかと思います。検討時期は2009 年10 月から2010 年3 月まで。F-scale(後述)の検討については2005 年4 月に行ったものです。GERD は胃内容物の食道への逆流や食道運動の異常により、「胸焼け」を典型的な症状とし(問診表)、時に喘息、慢性の咳、咽頭炎、非心臓性胸痛など食道以外の症状など多彩な自覚症状や合併症を生じる病態です。診断については自覚症状を基本とした専用の問診表があり, それに従って診断ができます(F-scale)(表1)。重症度には内視鏡所見による分類が使われており(LOS 分類)(図1)、N.M.A.B.C.D の順に内視鏡所見では重症となります( 図2)。



この分類に従い当院の外来、健診におけるGERD の罹患者数は6 ヶ月間の横断的調査で2641 名(除外634 例)おり、外来通院患者のみではその14.5%をしめております。全体の男女比は男性が女性の約3倍多くみられ、男女別、重症度別ではN では女性が多く、M.A.B.C では男性が多く、年齢別ではでは男女とも60 歳代が最も多くみられます(図3)重症度別では男性の場合、多い順からA . M . B . N となり、女性ではN . M . A . B . C の順となって男女差がみられます。



これを自覚症状をみる問診表であるF - s c a l e( 表1) による得点別(8 点以上がG E R D と診断される) でみますと、年齢
別では重症度とは比例せず男性では2 0 歳代が、女性では2 0 歳代から4 0 歳代までの得点が高く男女とも5 0 歳代以上は大きな差はありません( 図4)。


年齢別重症度分類でも2 0 歳台ではB は見られず、内視鏡所見のないN の割合が多く見られます(図3)。重症度別有症状率ではM 以外は重症度が上がるにつれて有症状率が高くなっています(図5)。


罹患期間と治療状況をみますと3 ヶ月以内が圧倒的に多くそそれ以上はバラツキが多く一定していません(図6)。


服薬状況については7 5%が服薬をしておりますが、罹患期間のバラツキを反映しており、重症度A . M ではほとんど服薬されておりませんが、B 以上では服薬率がたかくなっています。C . D ではほとんど連続服薬しておりますが、服薬していない例もみられます。以上のことによりG E R D の症状は内視鏡所見の重症度には必ずしも比例しない、症状を主体とした病態といえます。自覚症状と内視鏡重症度が一致しないのは「内臓知覚過敏」や「過敏性腸症候群」で代表される「機能性胃腸症」の場合があるからです。G E R D では自覚症状が重視されるため「機能性胃腸症」との鑑別が必要となります。G E R D の現状から本症をまとめますと、治療につきましては重症度C . D は連続服薬、それ以外は症状に応じた服薬でよいでしょう。最も重要なことは食道がんはじめ心筋梗塞、大動脈瘤などの命に関わる重大疾患と誤らないことです。このためには内視鏡検査をはじめとして定期的な検査は不可欠です。