以心会

高血圧

医師:横田広子

高血圧について

高血圧とは血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態です。高血圧自体の自覚症状は特にありませんが、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症リスクとなるため、問題なのです。生活習慣病の1 つであり、肥満・高脂血症・糖尿病との合併は「死の四重奏」「SyndromeX」などと称されていました。これらは現在メタボリックシンドロームと呼ばれています。


高血圧の人がどれくらいいるのかというと、50 歳代で2 人に1 人、60 歳代で3 人に2 人、7 0 歳代になると4 人に3 人の人が高血圧症とされています。


日本高血圧学会では高血圧の基準を以下のように定めています。


収縮期血圧が1 4 0 以上または拡張期血圧が9 0以上に保たれた状態が高血圧であるとされています。しかし最近の研究では血圧が高ければ高いだけ合併症のリスクが高まるため、収縮期血圧で1 2 0 未満が生体の血管にとって負担が少ない血圧レベルとされています。


ただし血圧が高い状態が持続する事が問題なのであり、運動時や精神的な興奮で一過性に上昇する場合を言っているのではありません。それは生理的な反応であり、高血圧の概念とは違うものです。普段は正常血圧なのに病院で測定すると上昇している方があり、白衣性高血圧と呼ばれ、治療の対象にはまだなりません。日常臨床の中で患者さんに高い時があったら高血圧と思っていませんかと質問すると、かなりの方がYES と答えられます。正しい知識の啓蒙が必要と痛感させられます。

日本高血圧学会による家庭血圧測定条件設定の指針
  1. 測定部位;上腕が推奨。手首、指血圧計の使用は避ける。
  2. 朝の場合は、起床後1時間以内、排尿後、服薬前、朝食前の安静時、座位1~2分後に測定。
  3. 夜の場合は就寝前の安静時、座位1~2分後に測定。
  4. 家庭血圧は1 3 5 / 8 5 m m H g 以上は治療対象、1 2 5 / 7 5 m m H g 未満を正常血圧。

原因

高血圧は原因が明らかではない本態性高血圧症とホルモン異常などによって生じる二次性高血圧に分類されます。高血圧症の9割以上の人が、本態性高血圧症とみられています。本態性高血圧の原因は単一ではなく、両親から受け継いだ遺伝的素因が産まれてから成長し、高齢化するまでの食事、ストレスなどの様々な環境因子によって修飾されて高血圧が発生するとされています。

動脈硬化症による脳内酸欠

一般的に病院で高血圧と診断される場合の大部分は、上行大動脈の動脈硬化症による脳内酸欠を防ぐため、血圧が上がっている状態のことを言います。

遺伝

両親の一方あるいは両方が高血圧であると発症しやすいといわれています。

塩分

日本人の高血圧の発生には食塩過剰摂取の関与が強いと言われています。日本人の食塩摂取量は一日平均1 2 g であり、欧米人に比べて多いといわれています。日本人の食塩嗜好は漬け物、味噌汁、梅干し、魚の干物など日本独自の食生活と関連がありますが、日本の高血圧治療ガイドラインでは一日6 g 未満という厳しい減塩を推奨しています。

ストレスや肥満、飲酒

高血圧の発症に関与すると言われています。

高血圧の合併症

高血圧が持続すると強い圧力の血流が動脈の内膜にダメージを与えるとともに血管内から血管収縮物質が分泌されることで、血管内皮が傷害されます。この修復過程で粥腫(アテローム)が形成され、動脈硬化の原因となります。慢性的疾患は大きく“脳血管障害”、“心臓疾患”、“腎臓疾患”、“血管疾患“の4 つに分類されます。

脳血管疾患

脳卒中、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血に分類されますが高血圧と関連が深いのは前2者です。脳出血は高血圧ともっとも関連するが、最近は降圧薬治療が浸透したためか、その頻度は減少してきています。脳卒中の結果として、片麻痺、失語症、認知症など寝たきりの原因となりやすい後遺症をのこすため、社会的、経済的観点からも高血圧の予防はきわめて重要です。

心臓疾患

虚血性心疾患;心筋梗塞や狭心症などの冠動脈の硬化によって心筋への血流が阻害されることで、心筋障害をきたす疾患群をいいます。高血圧が虚血性心疾患の重大な危険因子であることは間違いありませんが、高コレステロール血症、喫煙、
糖尿病、肥満などの関与も大きいです。最近は腹部内臓型肥満に合併した高血圧や高トリグリセライド血症、耐糖能異常などが冠動脈疾患の高リスク原因であるとされ、メタボリック症候群として注目されています。

腎障害

腎臓の糸球体は細動脈の束になったものであり、高血圧によって傷害されます。又、糸球体高血圧がレニン・アンギオテンシン系を賦活させるためさらに血圧を上昇させます。糸球体は廃絶すると再生しないため、糸球体障害は残存糸球体への負荷をさらに強める事となります。最終的には腎不全となり人工透析を受けなければならず、やはり社会的、経済的な負担は大きく、その進展予防は重要です。

血管疾患

動脈瘤

胸部や腹部の大動脈の壁の一部が動脈硬化性変化によって薄くなり、膨隆した状態を大動脈瘤と言います。内径が5 cm 以上になると破裂する可能性が高くなるので、手術適応となります。また血管壁の中膜が裂けて、裂け目に血液が入り込み、大血管が膨隆する状態を解離性大動脈瘤といい、生命を脅かす危険な状態になります。

閉塞性動脈硬化症

主に下肢の動脈が、動脈硬化によって著しく狭小化するか、あるいは完全に閉塞した状態をいいます。数十メートル歩くとふくらはぎが痛くなり、立ち止まると回復する場合はこの疾患を疑います。

眼障害

高血圧性網膜症や、網膜動脈・静脈の閉塞症、視神経症など様々な眼障害を合併します。

これらの様々な合併症は発症前に水面下で静かに進行するため、発症してからの対応では遅いのです。身体的、経済的、社会的な負担は大きなものになります。従って定期的健診を実施して早期に発見、対応することが重要なのです。健診で指摘されても症状がないからとか、以前から指摘されているのに変わりないから、といって放置するのが最も危険なのです。


高血圧の原因で、遺伝・加齢は自分の力では何ともすることはできませんが、他の原因は日々の生活習慣を改めることで改善したり克服できるものが多いのです。1 つでも危険因子を減らして高血圧の原因を無くすよう努めましょう! !