当院における胃がん治療実績
副院長:安藤 拓也
当院の胃がんの治療について
当院では年間約20,000件の胃内視鏡検査を行っており、その中から多数の胃がん病変が見つかっています。発見された胃がん病変に対して、精密検査を行ったのちに内視鏡的治療または手術治療にて適切な治療を行っています。
内視鏡的粘膜切除術は、分化型といわれるタイプの癌が粘膜内にとどまる場合に治療が可能です。とくに内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)では2cmを越えるような病変でも一括で切除することが可能であり、潰瘍をつくる分化型の粘膜癌で3cm以内の病変、潰瘍をつくっていない分化型の粘膜癌では大きさに関係がなく、ESDでの治療が拡大適応となり、手術で胃を切ることなく多くの粘膜癌の治療が可能になりました。当院は積極的に最新の治療方法を取り入れており、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を東海地方ではいち早く、2000 年10 月より導入し年間50 名前後の患者さんに対して治療を行っています。
手術治療では2009年から早期がんに対して腹腔鏡下幽門側胃切除術を導入してから徐々に腹腔鏡での手術が増加しており、最近では早期がんの胃全摘術に対しても腹腔鏡下手術を導入しています。
当院の胃がん治療の実績
2011年から2016年までの6年間に当院では合計502病変(456例)の胃がんに対して内視鏡治療または手術治療を行っています。1名(例)の患者さんに複数の胃がん病変が同時に見つかる場合もあります。 表1に当院で治療を行った胃がん病変数をstageと初期治療法別に示します。当院の特徴として正確な内視鏡診断により早期胃がんが多く見つかっており、502病変のうち419病変(393例)(83.4%)がstage Iの早期胃がんでした。stage Iの胃がんのうち276病変(254例)は初回治療を内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で治療しており、143病変(139例)が手術治療を行っています。
内視鏡で切除した胃がん病変の病理検査(顕微鏡検査)にて、粘膜下層への浸潤(500μm以上)や脈管浸潤などを認めた場合にはリンパ節に転移している可能性があり追加手術が必要になります。ESDで治療したstage Iの胃がん276病変(254例)のうち20例に追加手術を行っています。
stage | ESD | 手術 | 合計 |
---|---|---|---|
Ⅰ | 276 | 143 | 419 |
Ⅱ | 39 | 39 | |
Ⅲ | 29 | 29 | |
Ⅳ | 15 | 15 | |
合計 | 276病変 | 226病変 | 502病変 |
表1 当院で治療した胃がんのstage別の病変数 (初期治療法別)
(1例に複数の病変を含む場合もあります。)
また当院で初期治療として手術治療を行ったのは202例(226病変)でした。これにESD後に追加手術を行った20例を加えると、2011年から2016年の6年間に当院で行った胃がんの手術件数は222例ありました。このうちStage別の手術件数ではstage 1の早期がんが139例と多くを占めています(表2)。
stage | 手術件数(例) |
---|---|
Ⅰ | 139 |
Ⅱ | 39 |
Ⅲ | 29 |
Ⅳ | 15 |
合計 | 222 例 |
表2 stage別の手術件数
表3に到達法別の手術件数を年毎に示します。腹腔鏡手術は胃癌治療ガイドラインに準じて術前診断でStage Iの症例を中心に行っていますが、徐々に開腹手術よりも腹腔鏡手術の件数が増えています。最近では早期胃癌に対して腹腔鏡下胃全摘術も行っています。
年 | 手術件数(合計) | 開腹手術 | 腹腔鏡手術 |
---|---|---|---|
2011 | 39 | 26 | 13 |
2012 | 33 | 17 | 16 |
2013 | 36 | 22 | 14 |
2014 | 37 | 15 | 22 |
2015 | 34 | 20 | 14 |
2016 | 43 | 21 | 22 |
合計 | 222 例 | 121 例 | 101 例 |
表3 到達法別の手術件数
当院の特徴としては、外科医も内視鏡検査を行いますので、内視鏡治療と手術治療のうちより適切な治療法を内科的および外科的な視点で決めることが可能です。手術の際にも外科医自身が適切な術前診断や手術術式の選択を行うことにより、診断から手術まで一貫した治療を行うことができます。