胃食道逆流症(逆流性食道炎・非びらん性胃食道逆流症)
外科副部長:前田頼佑
胃の内容物が食道へ逆流することにより起こる病態を胃食道逆流症(Gastro Esophageal Reflux Disease:GERD)といいます。通常、胃と食道のつなぎ目は胃の中の胃酸や食事の逆流を防いでいるのですが、このつなぎ目が広がったり(食道裂孔ヘルニア)、食道や胃に内容物が停滞したり、胃酸分泌が増えたりすることで発症します。また、ピロリ菌に感染していない、もしくは除菌した人は胃酸分泌が増えるため発症しやすいとも言われます。
日本において1980年代には成人で1.6%前後だった有病率は、食生活の欧米化やピロリ菌感染率の低下に伴い現在では10~20%と報告されており増加しております。
GERDは以下の2タイプに分けられます。
①内視鏡検査で食道粘膜にただれ、潰瘍など を認めるびらん性GERD(いわゆる逆流性食道 炎)。このタイプには症状が無い場合もあり ます。
②内視鏡検査で異常はないが症状のみを認め る非びらん性GERD。
逆流性食道炎は高齢者、男性、喫煙者、肥満の人に多く、非びらん性GERDは女性、やせ形の人に多い傾向があると言われています。どちらも症状は同じなのですが病態は必ずしも同じではありません。逆流性食道炎が酸によって食道粘膜が炎症を起こし発症するのに対して、非びらん性GERDは粘膜に炎症は起こしませんが、食道の知覚が過敏になる等の理由で少量の酸や酸以外の液体が逆流しても発症してしまうと考えられています。
なので、後述するようにGERDの治療は胃酸の分泌を抑制する薬がはじめに使われますが、酸以外の液体でも症状が出てしまう非びらん性GERDでは、逆流性食道炎と比べてこの薬が効きにくい傾向があります。その場合は他の薬を併用することで症状の改善が見込める場合もあります。逆流性食道炎かもと思い受診された方で内視鏡検査を受けても異常が無いと言われた方は非びらん性GERDかもしれません。
症状
胸焼け(みぞおちの上のじりじりするような感じやしみる感じなど)、呑酸(酸っぱい液体が上がってくる感じ)が代表的な症状です。他にも食事の詰まり感や飲み込みづらさ、胸痛といった症状もあります。また、食道の症状だけではなく長引く咳、喘息、のどの違和感・痛みを起こすこともあります。
診断
まずGERDと診断するためには症状の確認が必要です。前述の症状があるかどうかでGERDと診断、もしくは疑うのですが、その際に問診票などを用いることもあります。
次に内視鏡検査を行います。逆流性食道炎なのか非びらん性GERDなのか、逆流性食道炎だとしたら粘膜の炎症の程度はどれくらいなのかを調べます。内視鏡検査を行わずに胃酸分泌を抑制する薬を飲んで症状が改善したらGERDと診断する方法もあります。これは簡便で検査を行わない楽な方法ではありますが、時にGERDの症状で内視鏡を行ったら癌が原因だったということもあるので注意が必要です。
他に食道に電極モニターを留置して胃酸や酸以外の内容物の逆流を24時間測定する24時間食道インピーダンス・pHモニタリングなどがあります。
治療
①生活習慣の改善
●食べ過ぎない、肥満を解消する、禁煙、アルコールや刺激物の摂取を避ける。
●食後すぐに横にならない、上半身を高くして寝る。
●前屈みの姿勢、ベルトやコルセットで腹部を 締め付け過ぎないようにする。
②薬物療法
●酸分泌抑制薬
胃酸の分泌を抑制する薬で、GERDを治療する上で最も重要な薬です。プロトンポンプ阻害剤(PPI:タケプロン、パリエット、ネキシウム、ラベプラゾール、ランソプラゾールなど)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB:タケキャブ)、H2ブロッカー(アシノン、プロテカジン、ガスターなど)があります。この中ではP-CABが最も強く酸を抑制しますが、どの薬剤を使用するかは症状や内視鏡検査などを参考に決定します。
●粘膜保護薬
食道の粘膜を保護して酸から守ります。アルギン酸塩(アルロイドG)があります。
●制酸薬
胃酸を中和する薬です。
●消化管運動機能改善薬・漢方薬
食道や胃の運動を改善し胃酸や胃の内容物を排出する薬です。ガスモチンや六君子湯などがあります。
●手術
薬による治療が無効だったり、食道裂孔ヘルニアがひどい場合には手術も考慮されます。
さいごに
GERDの治療をいつまで続ければよいかという質問を受けることがあります。GERDは症状や経過の個人差が大きい病気なので、はっきりとした答えはありません。一般的には8週間の薬物治療後に症状が改善していれば治療の終了を検討します。ただ、内視鏡検査で重症の場合は治療を継続することが勧められますし、軽症の場合や非びらん性GERDでも薬を飲まないと症状が再燃する場合は治療を継続することが望ましいです。また、オンデマンド療法といって治療を終了した後に症状が再発したら薬を飲み、改善したらやめるという治療法もあります。どういった治療が必要か、医師と相談しそれぞれに合った治療をしましょう。