以心会

過敏性腸症候群(IBS)

外科副部長:前田 頼佑

 様々なメディア等に取り上げられ、一般的にも知名度が高まった過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome、以下IBS)。炎症や腫瘍といった特定の原因がないにも関わらず腹痛と便通異常を起こす疾患で、約10人に1人が罹患していると言われており、消化器病院である当院には毎日多くのIBS患者様が受診されます。

症状

IBSの診断基準は以下の通りです。
◆腹痛が
◆最近3か月の中の1週間につき少なくと  も1日以上を占め
◆下記の2項目以上の特徴を示す
 ① 排便に関連する
 ② 排便頻度の変化に関連する
 ③ 便形状(外観)の変化に関連する
 つまり、腹痛に下痢や便秘、頻回の排便などを伴い、3か月間で週に1日生じる場合にIBSと診断されます。ただ、前提として大腸癌や潰瘍性大腸炎など他の消化器病による症状ではないことが必要なので、大腸内視鏡検査や血液検査などを行い他の消化器病を除外しておくことが推奨されます。
 IBSは硬い便が多い便秘型(IBS-C)、軟便や水様便が多い下痢型(IBS-D)、便秘も下痢もある混合型(IBS-M)、これらに分類されない分類不能型(IBS-U)に分けられます。
それぞれの型で治療法が異なるため、IBSと診断されたら便性状による型を決めることが重要です。

原因

 有病率に関して性差では女性の方が多く、年齢では若年者で多いとされています。
 IBSの原因として考えられているものはいくつかあり、その一つがストレスです。人間はストレスを感じると脳が反応し、それに伴い脳から腸にストレス刺激が与えられます。腸へのストレス刺激は腸の運動が亢進し腹痛や便通異常を引き起こします。これは脳腸相関と呼ばれており、IBSの原因として重要な部分を占めています。IBS患者様は日常生活で起きる事に対して悪く解釈する傾向があり、そのストレスが症状の重さにも関連しているとされています。
 その他の原因として腸内細菌の関与が挙げられます。急性胃腸炎、感染性腸炎にかかった後にIBSを発症される患者様がおり、これは腸内細菌の変化が原因と考えられております。胃腸炎後約10%の方がIBSを発症し、女性、若年者、心理的問題、胃腸炎の程度が強いことがリスクとなります。
 他にも腸管粘膜や神経系、ホルモンの異常、遺伝などが原因として考えられています。

検査

 IBSは症状で診断する疾患ですので、IBSと診断するための検査はありません。しかし、前述の通りIBSの症状が他の消化器病から起きていることもあるため大腸内視鏡検査や腹部CT検査、血液検査、便検査などを行い除外することが推奨されます。
 また、腹部超音波検査で腸管運動を評価したり、MRIで脳腸相関を評価するなどの研究が行われており、将来的には診断に活用される可能性があります。

治療

 IBSの治療は多岐に渡りますが、必ずこれで治るという治療はなく、場合によっては複数の治療を組み合わせる必要があります。また、症状が落ち着いたとしても治療中止で再燃することもあるため、治療期間が長くなる傾向があります。

食事療法

 一般的には規則的な食事、十分な水分摂取が症状を軽減します。また、脂質、カフェイン類、香辛料、乳製品は症状を悪化させる可能性があります。欧米では小腸で分解・吸収されにくい食品類を避けることが有効と報告されています。(低FODMAP食)

生活習慣の改善

 ウォーキング、ヨガ、エアロビクスなど適度な運動が症状を改善します。睡眠や飲酒は一部関連性が示唆されていますが、明確なものは確認されていません。

薬物療法

 第一段階として全ての分類型に共通し、まず、消化管機能調節薬(マレイン酸トリメブチン等)、プロバイオティクス(整腸薬、ビフィズス菌等)、高分子重合体(ポリカルボフィルカルシム)を使用します。下痢型には5-HT3拮抗薬(ラモセトロン)、便秘型には粘膜上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)を使用します。これらの薬は単剤使用が基本ですが、症状の改善がなければ併用することも可能です。これらの薬剤で改善がなければ下痢型には止瀉薬(ロペラミド、ベルベリン等)、腹痛には抗コリン薬(チキジウム、ブチルスコポラミン、メペンゾラート等)、便秘型には下剤を併用します。また、漢方薬(桂枝加芍薬湯、半夏瀉心湯、大建中湯等)や抗アレルギー薬が有効な場合もあります。
 上記の治療が無効の場合、第二段階に移ります。症状がストレスや心理的異常に関与する場合、抗うつ薬や抗不安薬を使用します。ストレスや心理的異常の関与が乏しければ再度検査を検討し、第一段階で使用しなかった便秘治療薬や下痢治療薬、抗うつ薬を使用します。

心理療法

 認知行動療法、リラクゼーション、催眠療法、マインドフルネス療法、ストレスマネジメント、力動的精神療法等があり、これらは薬物療法が無効だった場合に第三段階として行われますが、全ての医療機関で実施されているわけではありません。 認知行動療法、リラクゼーション、催眠療法、マインドフルネス療法、ストレスマネジメント、力動的精神療法等があり、これらは薬物療法が無効だった場合に第三段階として行われますが、全ての医療機関で実施されているわけではありません。

最後に

 先述した通りIBSに特効薬は無く、継続治療が必要な場合が多いです。患者様と医療スタッフとの信頼関係が治療に大きく影響しますので、症状でお悩みの方は是非ご相談ください。


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