以心会

アニサキス症

医師:神谷 賢吾

アニサキス症とは

 アニサキス症は、アニサキスが胃壁や腸壁に刺入して引き起こす寄生虫症です。アニサキスはイルカ、クジラ、アザラシなどの海洋に生息する哺乳類を終宿主とし、これらの胃に寄生する線虫です。虫体の多くは、長さが2~3cm、幅は0.5~1mmぐらいで、白色で少し太い糸のように見えます。
 ヒトへの感染源となる魚介類は、日本近海で漁獲されるものでも160種を超えるとされています。「しめ鯖」などのサバでの感染が最も多いですが、この他アジやイワシ、イカ、サンマなどが感染源になる魚介類として注意が必要です。

疫学

 感染源が魚介類の生食であるため、かつては11~4月の冬季に多くみられましたが、鮮魚の流通の発達などもあり近年では6~9月の夏季も含め1年を通して発生しています。本邦では年間~400件台の届出報告がありますが、届出をされていないものも含めると年間推計で7,000件に上るとの報告もあります。
 日本人は寿司・刺身などで魚介類を生食する習慣があることから、海外に比べ非常に多くみられます。
 アニサキスが感染する部位は、胃が90%以上と圧倒的に多く、次いで小腸、十二指腸となっており、ときに咽頭、食道や大腸にも虫体が確認されることがあります。

症状

 感染部位により胃アニサキス症と腸アニサキス症に分けられます。
 胃アニサキス症では摂取から8時間以内、腸アニサキス症では数時間~数日以内に、持続する激しい腹痛や悪心・嘔吐が起こり腹膜炎の症状を伴ったり、腸閉塞や腸重積を起こすこともあります。また5%程度の割合でアレルギー反応として発熱、蕁麻疹などの全身症状を伴うこともあります。また、症状が軽微で自覚症状も無く、健診などで偶発的に見つかることもあります。

診断

 最も重要なのは発症前の生鮮魚介類摂取を確認して本症を疑うことです。摂取歴と症状からアニサキスの感染を疑えば、まず上部消化管内視鏡検査を行います。虫体が確認されれば確定診断となります。感染は1匹とは限らず、同時に複数の虫体が見つかることもあります。刺入部周囲の胃粘膜は浮腫やびらん、点状出血などを起こし、炎症が強いと胃潰瘍などを伴うこともあります。
腸アニサキス症では内視鏡検査で調べられる範囲でないと虫体の確認は困難であり、病歴から疑われた場合、他の病気との鑑別のために腹部CT検査などを行います。CTでは小腸の壁肥厚、腸閉塞所見や腹水などがみられることがありますが、腸アニサキス症と診断することは難しいです。

治療

 アニサキス症の最も確実な治療は、内視鏡で粘膜に刺入している幼虫を確認し、生検鉗子で摘出することです。通常、虫体を除去すれば腹痛は速やかに消失します。しかし、上腹部症状が持続する場合や、腸閉塞症状がみられる場合は、胃以外の消化管で感染している可能性もあり、入院治療を行います。
 アニサキスはヒト体内では生きていけず1週間程度で自然死滅しますので、虫体が摘出できなくても保存的治療で基本的には治癒します。



上部内視鏡画像

予防

 アニサキスは60℃で1分、70℃以上では瞬時に死滅します。冷凍処理によりアニサキス幼虫は感染性を失うので、魚を-20℃以下で24時間以上冷凍することは有効です。酸には抵抗性があり、「しめ鯖」のように一般的な料理で使う程度の食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても死ぬことはありません。加熱調理するか、十分に冷凍してから調理することが効果的です。

 アニサキス症は上記の予防策を守れば基本的に防げる病気です。とは言え、新鮮な魚介類を生で食べるという文化は日本において慣れ親しんだ文化であり、美味しさを求めるには解凍食材では…と悩ましく思う方もいるかもしれません。
 感染しうる条件を頭に置いておくこと、疑わしい食事後に症状を起こした際には、受診の際にその食事内容を伝えることが速やかな診断、治療のために大切です。


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