非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLDについて)
副院長:安藤拓也
非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD(ナッフルディー))というのは聞き慣れないと思いますが、アルコール以外が原因の脂肪肝の総称で、過食と運動不足による肥満が主な原因になります。肥満人口の急増、生活習慣の変化により、NAFLDの患者さんは増加しており、最も頻度の高い肝疾患になっています。今回は、脂肪肝のなかでも非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)について説明します。
NAFLDとは
脂肪肝は様々な原因により肝臓の細胞内に中性脂肪が過剰に蓄積した状態です。アルコールの飲み過ぎが原因であるアルコール性脂肪肝と、アルコール以外が原因の脂肪肝(NAFLD)に分けられます。NAFLDの患者さんのアルコール摂取量は、男性で 1 日 30 g 未満,女性で 1 日 20 g 未満になります。男性ではビールなら750mL(大瓶1本強)、日本酒なら1合半、ワインではグラス2杯半、ウイスキーではダブルで1杯半よりも少ない1日の飲酒量(女性ではその2/3以下)になります。
NAFLDの80~90%は、病態がほとんど進行しない非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver ; NAFL)ですが、10~20%は肝臓の組織に炎症や線維化(硬くなる)が進行する非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis ; NASH)と呼ばれ、肝硬変や肝臓癌に進行する危険性があります。単に肝臓に脂肪がついただけと軽く考えずにしっかり治療することが重要です
原因
NAFLDはメタボリックシンドロームの肝病変です。主な原因は過食と運動不足による肥満であり、多くは糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病を合併しています。食事では、総エネルギー摂取量、糖質や脂質の摂取量が多いと、肝臓に脂肪が沈着しNAFLDを発症しやすくなります。特に糖質のなかでも、ソフトドリンクや嗜好品からの果糖やショ糖などの単純糖質の摂取が過剰であると、肝細胞の脂質合成が促進します。
近年の肥満の増加を背景にNAFLDは増加しており、健診では男性の約40%、女性の約20%に見つかります。年齢は、男性は中年層、女性は高齢層に多い傾向であり、女性は閉経後に増加します。肥満、特に内臓脂肪の蓄積と相関が強く、皮下脂肪型肥満の場合は約30%、内臓脂肪型肥満の場合は約50%に脂肪肝の合併がみられます。
診断
脂肪肝には自覚症状はありません。日常診療においてアルコールをあまり飲まない人で、超音波検査、腹部CTなどの画像検査で脂肪肝を認めれば、NAFLDを疑います。
特に超音波検査は簡便であり、診断には有用です。
血液検査では、AST、ALTなどの肝機能の軽度上昇が特徴であり、B型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎や自己免疫性肝疾患などの他の肝臓病が無いことを確認できれば、NAFLDと診断します。
NAFLD と診断された患者の36.2%がメタボリックシンドロームを合併しており、90%以上の患者さんで肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病を合併しています。
治療
NAFLD治療の原則は、食事療法・運動療法による肥満の改善が重要です。
体重を7%以上減量すると脂肪肝が改善します。少しずつ標準体重を目指すことをお勧めします。
運動療法は、歩行やジョギングなどの有酸素運動による体重減少が有効です。1日30分以上の有酸素運動を週に3、4回行いましょう。筋トレなどのレジスタンス運動も有用で、筋肉量が増えて基礎代謝が高まるので、体重減少が見られなくても脂肪肝が改善します。
食事療法では、カロリー制限が重要で、炭水化物や脂質を制限した適切な量の食事を心がけて体重を減らしましょう。過剰に摂取された糖質は中性脂肪に変換され、肝臓の脂肪が増えます。糖質の中でも特に果糖の過剰摂取は肝臓の線維化と関連しており、果糖の多いソフトドリンク、果物などは減らしましょう。また多価不飽和脂肪酸(魚油、EPA・DHA、コーン油)、一価不飽和脂肪酸(オリーブ油、ナッツ類)は多く摂取した方が良いとされています。
食行動の改善も有効であり、「早食い」、「朝食を食べないこと」、「遅い夕食、夜食」も体重を増加させる原因になるので、改善が必要です。
薬物治療には、確立された治療法はありません。糖尿病、高血圧、脂質異常症などを合併している場合には、その薬物治療が重要であり、NAFLDの治療としても有効です。肥満や基礎疾患のない場合には、抗酸化作用をもつビタミンE製剤を使用することがあります。
おわりに
NAFLD の患者さんはメタボリックシンドロームの合併が多いため、動脈硬化による心血管障害や脳血管障害が大きく影響します。また長期間にわたる肝臓の慢性炎症によって肝臓が硬くなり、肝硬変へ進展し、肝臓に癌が発生することもあります。NASH が原因である肝硬変から年率2%で肝臓癌が発生すると言われています。自覚症状はなく、知らない間に病状が進行してしまう危険性もありますので、年に1回は健康診断や人間ドックで血液検査や超音波検査を受けることが重要です。また肥満の人、糖尿病や脂質異常症で治療を受けている人も、定期的に血液検査や腹部超音波を行い、脂肪肝の有無や肝機能の数値を調べることをお勧めします。
脂肪肝は肝臓癌の原因にもなる危険性もありますので、肝臓に脂肪が付いただけと軽く考えずに、食事療法・運動療法を行って肥満を改善することが大切です。