膵臓癌 早期発見のために
医師:上田 悟郎
はじめに
膵臓はみぞおちの下あたりにある、オタマジャクシのような形をした臓器で長さは12~20cmほどです。
膵臓の大きな働きとして、体の内分泌機能と外分泌機能を調整しています。内分泌機能とはインスリンのように血中に放出されて血糖を調整する作用のことをいいます。また外分泌機能とは膵液という食べ物を消化する酵素が含まれた消化液を消化管に放出し食べ物の消化を助ける作用のことをいいます。
膵臓癌の約9割は膵液が分泌される膵管上皮(膵管の内側の細胞)から発生します。また頻度は少ないですが、消化酵素を作る腺房細胞から発生する腺房細胞癌や、ホルモンを分泌する細胞から発生する神経内分泌癌があります。
膵臓癌は非常に診断と治療の難しい癌で、診断がついた段階で手術できる患者さんはわずかに約20%に過ぎません。また切除できても術後の再発率が高く、術後の5年生存率は20-40%と不良です。また膵臓癌と診断された患者さんの5年生存率はわずか10%前後といわれています。その理由の1つとして、膵臓癌の早期発見の難しさに原因があります。
症状
膵臓癌は早期ではほとんど症状がなく、症状が出現する頃にはかなり進行しています。膵頭部(オタマジャクシの頭側)に癌が発生すると皮膚や目が黄色くなる黄疸が生じることがありますが、膵体尾部(オタマジャクシの尻尾側)に発生した癌はかなり大きくなるまで症状が出にくいです。そしていずれの部位にできた癌も癌が大きくなり、周囲の組織に広がると、ようやく腹痛や背部痛として症状が出現します。また体重減少や、食欲減退、糖尿病の発症(悪化)等もこの頃から出現します。しかし、このような症状が出現した頃には手術で切除することができない状態になっています。
膵臓癌を早期発見するためには、まず膵臓癌の発症リスクを知って自分にそのリスクがあるかどうかを知ることが重要です。
膵臓癌のリスク因子
①家族歴:家族に膵臓癌のある人がいる。
②糖尿病:約2倍リスクが高くなる。特に最近発症した糖尿病や、糖尿病の急な悪化は膵臓癌が併存している可能性がある。
③喫煙:約1.7-1.8倍リスクが高くなる。
④肥満:約1.3-1.4倍リスクが高くなる。
⑤飲酒:約1.1-1.3倍リスクが高くなる。
(1日あたりビール 約500~1000ml摂取)
⑥遺伝性膵炎:アルコールや胆石症以外が
原因の膵炎を若い時に発症したことがある。
⑦慢性膵炎:慢性膵炎と診断されて2年以上経過後に膵臓癌の発症が増える。
⑧膵のう胞:膵臓の内部や周囲にできる様々な大きさの「袋」が時間経過とともに大きくなり、癌に進行することがある。膵のう胞は膵臓癌のリスク因子として経過観察を行う必要がある。
検査
膵癌の早期発見のために最近、腹部超音波検査の重要性が注目されています。腹部超音波検査はお腹に超音波を発信する装置をあて、内臓からの超音波の反射波を読み取り、お腹の画像をモニターに写す検査です。腹部超音波検査は消化管ガスの影響や体型(肥満)によって、が難しいことがありますが、比較的体への負担が少なく安全な検査です。
前述の膵臓癌のリスク因子、症状(腹痛、黄疸など)、採血での膵酵素・腫瘍マーカーの異常を認めた場合には積極的に腹部超音波検査を行うことが推奨されています。また健診や人間ドックでも腹部超音波検査を行うことができるので、積極的に活用した方がよいと思います。
腹部超音波検査で膵臓に異常を認めた場合には、さらに超音波内視鏡(EUS)やCT、MRIなどの画像検査や血液検査を追加して診断を進めていきます。
もし、膵臓癌と診断された場合には、周りの臓器への広がり、リンパ節や他の臓器への転移の有無によりステージ(進行度)が決まります。
治療
膵臓癌の治療には主に癌を切除する「手術」と抗がん剤を使う「化学療法」があります。治療方法は癌のステージ(進行度)によって決まり、組み合わせて行う場合もあります。最近では、手術前に抗がん剤を使用し、癌を小さくしてから手術を行い、さらに手術後に再発を予防するための抗がん剤を追加で行う治療方法もあります。また手術治療でも最近では、傷の小さい腹腔鏡手術やロボット手術も健康保険に適応され、今後これらの手術も増えていくと予想されます。
おわりに
膵臓癌は未だに予後が厳しい疾患ではありますが、早期発見、早期治療ができるように自分自身のリスク因子等を理解し、積極的に腹部超音波検査を活用しましょう。