マロリー・ワイス症候群と特発性食道破裂
医師:神谷 賢吾
激しく嘔吐してしまった時などに出血を生じることがあります。このような時にはマロリー・ワイス症候群や特発性食道破裂という疾患が起きている可能性があります。
どんな病気か
マロリー・ワイス症候群(Mallory-Weiss症候群)とは、嘔吐などにより腹圧、胃食道内圧が急激に上がることで、食道と胃の境目の表面が縦に裂けて出血してしまう疾患です。この裂傷は粘膜下層までに生じ、粘膜下の動脈から出血します。通常は胸痛や腹痛を伴いません。
《マロリー・ワイス症候群内視鏡写真》
特発性食道破裂はBoerhaave症候群とも呼ばれ、やはり食道内圧が上昇したときに、食道が壁の外側までの全層で裂けて穴が開いてしまう疾患です。穴が開いた部分から細菌感染が広がり命に関わります。通常は強い痛みを伴います。
原因
マロリー・ワイス症候群や特発性食道破裂は、繰り返しかかる腹圧によって食道と胃の境目の壁が何度も勢いよく広げられ、粘膜面が縦方向に裂けることで起こります。アルコールを飲んだ後に嘔吐を繰り返すことが原因となることが多いといわれていますが、それ以外に、しゃっくり、くしゃみ、咳、喘息発作、腹部打撲、排便や出産時のいきみなどが原因となる場合もあります。
症状
マロリー・ワイス症候群では、繰り返す嘔吐後に吐血、下血、心窩部痛、立ちくらみなどを起こします。特発性食道破裂では嘔吐反射直後、突然バットで殴られたような胸痛や腹痛、背部痛などの強い痛みが起こります。破裂後時間がたつとショック症状など重篤な状態になってしまいます。
どのような方に多いか
マロリー・ワイス症候群の好発年齢は30~50歳、約90%が男性です。飲酒後の嘔吐での発生が30~50%を占めます。萎縮性胃炎がある場合は粘膜の伸びに弱くなり発症しやすくなり、胃の入り口が広がりやすくなる食道裂孔ヘルニアがあると胃の内圧が上がりにくいことで発症しにくくなるともいわれています。特発性食道破裂の好発年齢も30~50歳の男性とされ、やはり飲酒後の嘔吐で発生することが50~80%と多くを占めます。
診断
嘔吐に続き起こる吐下血など、急な腹圧上昇を来す状況の有無を確認することである程度診断することができます。上部消化管内視鏡で粘膜裂創の有無とそこからの活動性出血を確認することで確定診断できます。マロリー・ワイス症候群の場合は裂創の深さは65%が粘膜下層までにとどまり、筋層まで達するのは30%程度です。
特発性食道破裂が疑われた場合は、レントゲンやCTでの食道の外側への空気の漏れ(気腫)や胸水を認めたり、食道造影で造影剤が食道の外に漏れる所見を認めれば、食道破裂と診断されます。内視鏡検査では破裂部位を直接確認できますが、破裂部をさらに悪化させる可能性もあり注意が必要です。
治療
マロリー・ワイス症候群では内視鏡検査時に止血している場合は特に処置は必要としません。出血がみられる場合は内視鏡的に止血します。裂創が深い場合は入院の上で絶食・輸液、酸分泌抑制薬投与などを行い治療します。ほとんどの場合、自然止血がみられ、その後再発することは、あまりありません。特発性食道破裂の場合は、緊急手術での破裂部の縫合閉鎖、ドレナージ術(ドレーンチューブを留置し、たまった滲出液・膿・血液などを排出すること)が必要になります。早期に治療を行った方が救命率は高くなります。
予後
マロリー・ワイス症候群では、多量の出血が出ない限り基本的に良好です。
食道破裂の場合、昔は死亡率40%台と予後不良な疾患でしたが、医療技術の進歩により現在では10%前後まで低下していますが、致命的となる可能性がある重篤な病気であり、早期診断・早期治療が特に重要です。
最後に
嘔吐した時に出血した場合や嘔吐後に強い胸痛や腹痛を認めた場合には、マロリー・ワイス症候群や特発性食道破裂の可能性もありますので、消化器専門の病院を早めに受診してください。また適切量の飲酒を心がけて、嘔吐するまで飲酒することは避けましょう。