以心会

食道癌について

副院長:安藤 拓也

食道とは

 食道は、喉から胃の入り口までのびる約25~30cmほどの管状の臓器です。食道癌は、食道の内面をおおっている粘膜(扁平上皮)の表面から発生します。大きくなると深く広がっていき、食道の外側の気管や大動脈などにも広がります。食道の壁内にあるリンパ管や血管にがんが侵入すると、リンパ液や血液の流れに乗ってリンパ節や肺、肝臓などの他の臓器へと転移します。


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 食道癌の早期発見は難しく、悪性度は胃癌や大腸癌に比べると高いです。我が国では食道癌と診断される患者さんは男女とも少しずつ増加傾向にありますが、死亡率は横ばいです。年齢は60-70歳代が多く、男性が女性の約6倍多い。食道癌で亡くなられる方は、男性では肺癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌に次いで高く、女性では10番目以下です。

検査

 食道癌を見つけるには、内視鏡検査と消化管造影(バリウム検査)を行いますが、早期癌の発見には内視鏡検査が不可欠です。さらに内視鏡検査時にヨード染色法を併用すると、食道癌はヨードで染色されずに白色の病変として認識され、肉眼では分かりにくい病変を早期発見しやすくなります。また内視鏡から特殊な光を当てて食道の粘膜内の血管などの変化から癌を見つける「狭帯域光観察(NBI)」も早期癌の発見に有用です。


早期癌(通常内視鏡像)


早期癌(ヨード染色像)


早期癌(NBI観察像)


進行癌

症状

 早期癌では自覚症状はほとんどなく、内視鏡検査でたまたま発見されることが多い。癌が進行すると、前胸部の違和感・痛み、食事のつかえ感、声のかすれ、などの症状が出現します。

食道癌の種類

 食道癌には主に扁平上皮癌と腺癌に分けられます。もともと食道の粘膜は扁平上皮ですが、逆流性食道炎の繰り返しで食道下部の扁平上皮が腺上皮(胃の粘膜)に置き換わると腺癌が発生しやすくなります。日本や中国などの東アジアではほとんどは扁平上皮癌で、喫煙と飲酒が最大の発癌要因になります。腺癌は欧米人に多いタイプで、逆流性食道炎、肥満、喫煙と関連があります。日本では扁平上皮癌が約90%と圧倒的に多く、腺癌が約4%程度ですが、今後腺癌の増加が予想されます。

食道癌になりやすい人

 日本に多い扁平上皮癌には「飲酒」、「喫煙」が関連し、その両方の習慣がある人は危険性が高くなります。飲酒も喫煙もしない人に比べ、飲酒者では2.76倍、喫煙者では2.77倍、食道癌のリスクが上がります。さらに飲酒と喫煙を両方する人のリスクは8.32倍に上昇し、飲酒と喫煙の組合せにより食道癌になる危険性がとくに高くなります。
 特にお酒を飲むと「顔が赤くなる」人は注意が必要です。経口摂取した「アルコール(エタノール)」は小腸で吸収され肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)により「アセトアルデヒド」に代謝され、引き続きアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により「酢酸」へと代謝されます。


 アセトアルデヒドは発がん物質であり、顔面や体が赤くなったり、頭痛、吐き気、二日酔いの原因となります。アセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素(ALDH)のうち2型(ALDH2)の働きが弱い体質の人はアセトアルデヒドを分解する働きが弱く、お酒を飲むと「顔が赤くなる」体質ということになります。日本人の約45%はALDH2の働きの弱い体質とされています。お酒を飲むと「顔が赤くなる」体質の人は、発がん物質であるアセトアルデヒドを分解できずに体内に残りやすいので食道癌になるリスクが高くなります。

食道癌の深達度

 食道壁の粘膜下層までにとどまる癌を「表在癌」、固有筋層より深くまで広がる癌を「進行癌」と呼びます。さらに表在癌のうち粘膜にとどまる癌を「早期食道癌」と呼びます。

治療法

 粘膜表層までの癌にはリンパ節転移がほとんど無いことから、内視鏡治療で根治が可能です。それより癌が進行していると手術治療になることが多く、放射線治療や抗癌剤治療を行う場合もあります。当院では内視鏡治療は行っていますが、食道癌の手術は大がかりで危険性もやや高いので、専門施設に紹介しています。
 最近の内視鏡治療では、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が主流になっています。ESDでは病変周囲の粘膜を切開し、その後粘膜下層に潜り込みながら剥離して病変を切除する方法です。胃癌の内視鏡治療に比べて技術的難易度は高くなり、合併症にも注意が必要です。食道壁は薄いので穿孔(穴が開くこと)すると、重症になる危険性があります。


内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

 早期癌であるがESDが危険と判断された高リスク症例に対しては、内視鏡の先端からアルゴンプラズマを放出して癌を焼き尽くす治療(アルゴンプラズマ凝固法)を行います。

食道癌の予防には

 日本人の場合、酒も飲まずタバコも吸わない人から食道癌はほとんど発生しません。喫煙者は禁煙をして適量の飲酒を心掛けましょう。とくにウイスキーや焼酎のようにアルコール度数が高い酒は食道粘膜を直接障害しやすいので水割りで薄めて飲みましょう。熱い飲み物や食べ物も危険因子になるので、冷ましてから口に入れましょう。野菜や果物の摂取には食道癌の予防効果がありますので積極的に食べましょう。逆流性食道炎のある方は、内服治療にて食道下部の炎症を抑えて食道腺癌の発症を予防しましょう。
 食道癌の早期発見には内視鏡検査(胃カメラ)が有用ですので、喫煙歴や飲酒歴のある方、逆流性食道炎のある方は、定期的に内視鏡検査を受けることをお勧めします。