以心会

胃潰瘍とは

医師:齋藤 慎一郎

 上腹部痛を訴えて来院される患者様の中には、胃潰瘍を心配され内視鏡検査を希望される方が多くいらっしゃいます。そもそも胃潰瘍とはどんな病気なのでしょうか?

 胃潰瘍とは何らかの原因により、胃の壁が粘膜より深い層まで傷ついた状態をいいます。(粘膜までの傷を「びらん」といいます)


十二指腸のはじめの数cmにも潰瘍が発生することがあり、胃潰瘍と合わせて消化性潰瘍と呼ばれています。
 胃潰瘍の患者数は減少傾向にあり、1990年代と比較して2014年には約1/4まで減っているという報告がありますが、依然として多くの発生を認めます。患者数減少の要因としては、2000年より胃十二指腸潰瘍に対するピロリ菌除菌治療の適応が認められ、さらに2013年にはピロリ感染性胃炎に対しても除菌治療の適応が拡大され、ピロリ菌に感染した患者さんが急速に減ったことが大きく関係しているといわれています。

原因

 胃潰瘍はどのようにして起こるのでしょうか?胃粘膜防御機構という考え方があり、攻撃因子である胃酸の分泌が過剰になったり、胃粘膜を守る防御因子が弱くなったりすることで、攻撃と防御のバランスが崩れて胃の壁の損傷が引き起こされると考えられています。具体的な原因としては、ピロリ菌感染と薬剤性によるものが2大要因として知られています。両者とも胃酸の分泌過剰ではなく、胃粘膜保護の防御因子の破綻が関連しているといわれています。
 ピロリ菌感染が原因の胃潰瘍は男性に多く、単発性で胃の真ん中から上部に認められることが多いです。ピロリ菌は胃に感染する細菌で、胃炎・胃潰瘍・胃癌の発生に関連します。ほとんどの場合小児期に感染し、除菌を行わないとピロリ菌に感染した状態が持続します。前述のようにピロリ菌の除菌が進み、以前よりかなり減少したといわれています。
 薬剤性の胃潰瘍は、鎮痛薬として用いられる非ステロイド性抗炎症剤や、抗血栓薬として用いられる低容量アスピリンなどが原因となります。高齢女性に多く、胃の出口側に多発することが多いです。また出血や狭窄などの合併症の頻度も比較的高いといわれています。
 これらの2大要因以外の原因はどうでしょうか?胃癌やリンパ腫の様な腫瘍によるもの、サイトメガロウィルスや梅毒等の感染によるものなど様々な原因があります。原因がはっきりしない潰瘍もあり、突発性潰瘍と呼ばれています。突発性潰瘍の原因としては高齢、背景疾患、ストレス性などが誘因といわれており、胃潰瘍全体の約12%を占めるという報告もあります。最近の報告としては2011年に発生した東日本大震災後に、ある被災地における潰瘍の発生が1.5倍に、出血性胃潰瘍の発生が2.2倍に増えたというデータがあります。突発性胃潰瘍の原因としてストレスが大きく関わっている可能性があります。

症状

 胃潰瘍の症状は腹痛・吐き気・胃部不快感など様々ですが、まったくの無症状のこともあります。また出血・穿孔・狭窄などの合併症が起こることもあります。約2/3の患者さんが上腹部痛を認め、痛みの性状としては鈍く、疼くような、焼けるような痛みとなることが多いです。食事との関連は強く、潰瘍の部位により、食後や空腹時や夜間に痛みを呈します。また約半数の患者さんには、嘔吐や吐き気を認めます。
 胃潰瘍から出血を伴うと、吐物の中に血性や黒色の成分が混じることや、タール便といわれる黒色の便が出ることもあります。出血量が多量になると、頻脈や血圧低下といった貧血に伴う症状が現れ、内視鏡による止血や手術・輸血などの処置を要します。
 胃潰瘍が深く胃の壁に穴が開いてしまうと、胃の内容物が漏れ出し、腹膜炎を起こし持続する強い腹痛を認めます。潰瘍が穿孔した場合には、緊急手術が必要なことが多く、腹膜炎がひどいと致命的となることもあります。

治療

 胃潰瘍の治療としては、胃酸を抑える薬や粘膜を保護する薬などを内服することにより行います。胃潰瘍の原因となる薬剤の内服があれば、可能な限り薬の中断や変更を行い、その後ピロリ菌感染が確認されればピロリ菌の除菌治療を行います。また癌などの腫瘍が関係していないか、内視鏡にて細胞を採取して検査します。
 診断時の内視鏡検査にて、胃潰瘍からの出血が認められた場合には止血処置を行い、貧血が認められれば、輸血や鉄剤などの貧血治療も行います。大きな潰瘍や症状が強い場合には、入院による治療が必要となる場合もあります。内視鏡での止血が困難であったり、狭窄や穿孔などの合併症が起こっている場合には手術を行うこともあります。
 胃潰瘍治療中の食事については、カフェイン、たばこ、アルコール、香辛料などの胃酸の分泌を促す食品や刺激物の摂取を控え、消化の負担となるような脂肪や食物繊維の多い食事を避け、出来るだけ消化のよいものを摂取しましょう。また自分にあったストレス解消法を見つけ、規則正しい生活・食生活を心掛けてゆっくり休むことも大切です。