いぼ痔を切らずに治す 「硬化療法」
外科部長:安藤拓也
はじめに
最近、痔核(いぼ痔)に対する新しい治療法として、注射で治す「硬化療法」が行えるようになりました。この治療法は、「ジオ
ン(ALTA)注」という薬を痔核内に注射して、痔に流れ込む血液の量を減らして痔核を固めて小さくして、脱出と出血症状を改善します。一般的には「ALTA 療法※」と言われています。
※ ALTA とは、有効成分である「硫酸アルミニウムカリウム水和物・タンニン酸」の英名ALuminumpotassium sulfate hydrate・Tannic Acid の頭文字をとった略です。ALTA の商品名がジオン注になります。
痔核( いぼ痔) とは
長年の便秘や下痢、排便習慣などで、肛門周辺にある毛細血管が拡張して静脈瘤となったり、肛門周囲の組織が弛んで膨らんで「いぼ痔」となります。図1のように、歯状線より奥の直腸側にできるものを内痔核、外の肛門側にできるものを外痔核といいます。内痔核は痛みを感じない部位ですが、外痔核は痛みを感じます。「硬化療法(ALTA 療法)」は、痔核のなかでも、痛みの感じない部位にできる「内痔核」が治療の対象になります。
「硬化療法(ALTA 療法)」とは
注射薬である「ALTA(商品名:ジオン注)」を内痔核に注射して、痔核内に炎症を起こすことにより痔に流れ込む血液の量を減らして、痔核を固めて粘膜に癒着・固定させる治療法です。メスで内痔核を切ることなく、痔核の脱出・出血症状を改善する治療法です。痔核の痛みを感じない部分に注射するので、痔核を切り取る手術と違って「傷口から出血する」「傷口が痛む」ということはなく、入院期間も短縮できます。当院では2、3日の入院で治療が可能です。
メリット
- 従来の手術方法である結紮(けっさつ)切除術(従来の痔を切り取る手術)と比べて、痛みや出血が少なく、身体的・精神的負担が軽くなります。
- 結紮切除術と比べて短い入院で治療が可能です。
デメリット
- 結紮切除術に比べ、やや再発率が高い可能性があります。
- すべての痔核が硬化療法で治療できるわけではありません。痔核がひどい場合や外痔核が主体の場合には、従来の結紮切除術での治療が必要になります。
実際の治療方法
当院では手術室にて行います。治療は鎮静剤により眠っている間に行います。硬化療法の注射薬はひとつの痔核に対して図のように4ヶ所に分割して注射します。これは痔核に薬液を十分に浸透させるための方法で、「四段階注射法」といいます。
複数の痔核がある場合にはそれぞれに投与します。硬化療法(ALTA 療法)のみで治療した場合は、痛みがほとんどありません。
ALTA 注の投与後の経過
ALTA 注を注射すると、投与後の早い時期に痔核への血液の量が減り、出血が止まります。脱出の程度も軽くなります。その後1週間から1ヶ月くらいで、投与した部分が次第に小さくなり、脱出や肛門周囲の腫れも引いてきます。引き伸ばされていた支持組織が元の位置に癒着・固定して、脱出が見られなくなります。
退院後もしばらく通院し、定期的に治療経過を確認することが必要です。
副作用が起きることもまれにありますので、定期的に通院してください。
また排便は翌日から可能ですが、いきむのは短時間にしてください。「力仕事」「冷え」「長時間の同じ姿勢」は避けてください。また治療を受けたあとの数日間はできるだけ安静にしてください。
副作用について
硬化療法による副作用はまれですが、血圧低下、嘔気、肛門部の違和感、狭窄、排便困難、痛み、出血、一過性の発熱などが報告されています。
外痔核も認めた場合には
内痔核とともに外痔核を合併して認める場合も多く見られますが、外痔核には「硬化療法(ALTA 療法)」が使えません。その場合には、内痔核はALTA 療法で治療して、外痔核成分のみを局所麻酔にて切除することにより治療が可能な場合もあります。外痔核を切除した場合には、手術後に軽い痛みが見られますが、従来の痔核全体を切り取る手術に比べて痛みは軽いです。
硬化療法による治療を希望されるには
長い間いぼ痔に悩んでいる患者さんは、恥ずかしがらずに当院の医師にご相談ください。すべての痔核に対して硬化療法を行えるわけではありませんので、痔核がひどい場合や外痔核が主体の場合には、従来の手術治療が必要になります。まず診察にて硬化療法での治療が可能であるかを決めさせていただきます。