以心会

急性虫垂炎

急性虫垂炎について

医師:齋藤 慎一郎

虫垂と呼ばれる部位に炎症を起こし、お腹の右下に強い痛みが起こる病気です。時に治療として手術が必要となることもあります。今回は急性虫垂炎について解説します。

急性虫垂炎とは


図1

大腸の一番口側にある盲腸の先についている虫垂という部位に炎症が起こった状態です。いわゆる「盲腸」としてよく知られていますが、医学的には急性虫垂炎が正式な病名です。急に激しい腹痛を訴え、外科的な治療を必要とする病気を総称して「急性腹症」といいますが、虫垂炎はそのなかでも最も頻度の高い病気です。虫垂に炎症が起こる原因は完全には分かっ
ていませんが、便の塊やリンパ組織などにより虫垂内腔が狭くなったり、細菌による二次感染が起こり発症すると考えられています。虫垂炎の発症のピークは10~ 20 代ですが、小児や高齢者も含めてどの年齢層でもみられ、男女差はありません。炎症の強さによって軽い順から(1) カタル性虫垂炎、(2) 蜂窩織炎性虫垂炎、(3) 壊疽性虫垂炎の3段階に区分されています。


症状と診断


右下腹部痛、吐き気、発熱などで発症することが多く、初めにみぞおちや臍周囲が痛くなり、徐々に痛みが右下腹部に移動することがあります。しかし、このような典型的な症状を示すことは決して多くもなく、半数程度にすぎないため注意が必要です。さらに化膿が進むと虫垂に穿孔(腸に穴が開くこと)が起こり、周囲に膿が貯留する腹腔内膿瘍や、お腹の中に膿が広がる汎発性腹膜炎という状態まで進んでしまうことがあります。こうなると高熱、腹満感などの症状が現れたり、お腹を軽く触るだけでひどく痛くなったり,歩く時に痛みが響いて前かがみになったりする場合があります。このようにひどくなるまで診断がつきにくいこともあります。

診断については、腹部の触診、血液検査、腹部CT 検査、腹部超音波検査などの検査が行われています。血液検査では白血球数、CRP 値といった炎症の強さを、腹部CT、超音波検査などの画像検査では虫垂の腫れの程度、腹腔内膿瘍の有無などを判断し、総合的に治療の緊急性や方針などを決定していきます。同じような症状を起こして、間違えやすい病気としては、結腸憩室炎、尿路結石、腸炎、婦人科疾患などがあります。

治療

1894 年に虫垂を切除する手術が報告されていて以降、外科的治療は急性虫垂炎の標準治療とされてきました。現在では外科的治療として腹腔鏡下手術なども行われています。また、炎症の程度などを考慮したうえで、外科的治療を行わず抗生剤を使用する保存的治療も多く行われています。

外科的治療

虫垂切除術

図2

虫垂切除術の場合は右下腹部に斜めの皮膚切開(交叉切開、図2- ①)、もしくは腹直筋の外縁に沿うような縦の皮膚切開(傍腹直筋切開、図2- ②)を行い、虫垂を切除します。


図3

腹腔内膿瘍や汎発性腹膜炎が認められた場合は、お腹の中にシリコン製の管を術後数日間のあいだ留置し、汚染物質を体外へ排出する腹腔ドレナージ術を追加します。炎症による変化が虫垂に留まらずに盲腸まで到達している場合は、その程度によって盲腸切除術や回盲部切除術などの拡大手術が必要となる場合もあります。


腹腔鏡下虫垂切除術

図4

腹腔鏡を用いて小さい創で手術を行う方法です。3 ヵ所の穴をあけ、腹腔内にカメラを入れて虫垂の切除を行います。腹腔鏡下虫垂切除術のメリットとしては、開腹手術に比べて創部の感染が起こりにくく、痛みが少ないといわれています。また、腹腔鏡下手術でも腹腔ドレナージ術の追加や、拡大手術への変更なども可能です。腹腔鏡手術は炎症の程度によっては行えない場合もあります。


保存的治療


抗生剤を使用して治療を行う方法です。よく「虫垂炎をちらす」といういい方をする治療法です。カタル性虫垂炎や一部の蜂窩織炎性虫垂炎など比較的炎症が軽いものが適応とされています。抗生剤を使用しても改善しない場合もあり、途中で外科的治療に方針を変更することもあります。また約10-30% 程度で再発をするという報告もあります。最近では腹腔内膿瘍などを伴った炎症の強い虫垂炎に対しても、急性期の緊急手術による切除範囲の拡大や術後合併症をへらす意味で、まず保存的治療を行い炎症が沈静化したあとに予定手術を行う「間欠的虫垂切除術」といった考え方もあります。

最後に

急性虫垂炎は簡単な病気と思われがちですが、典型的な症状が出ないこともあり、ひどくなってからやっと診断される場合もあります。特に小児や高齢者では治療が遅れると、汎発性腹膜炎など重症化してしまうこともあります。下腹部痛や発熱などがありましたら、早期に病院を受診してください。