以心会

便秘について

医師:前田頼佑

現在日本では1000万人以上の方が便秘を自覚していると言われており、当院でも便秘でお困りの患者様がたくさんみえます。便秘はとてもありふれた症状であり、病院での処方薬、薬局での市販薬、食事療法、運動療法など治療法も様々です。ただ、そもそも便秘とはどの程度便が出なかったら便秘なのかという定義から、正しい治療法等、長い間決定的なものはありませんでした。そこで昨年日本消化器病学会監修の元、「慢性便秘症診療ガイドライン」が発刊されました。これは日本で初めて成人便秘の治療方針について記述されたものです。また、ここ数年で新しい薬剤も登場し便秘の治療も進歩しております。今回はこのガイドラインに基づき便秘について説明していきます。

便秘の定義

便秘の定義をガイドラインでは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」としております。食事の量が少ないために便の量も少なく、それで排便回数や排便量が少なくても便秘とは言わないということです。また、残便感があっても実際には直腸に便がない場合(便に対する執着が強い強迫神経症状)も便秘とは言いません。
診断基準には「4回の排便の内1回以上で①強くいきむ必要がある、②便が硬い、③残便感を感じる、④おしりもしくはおしりの奥につまった感じ、出しづらい感じがある、⑤手で掻き出したり、圧迫する必要がある」、もしくは「⑥自然な排便(下剤を使わない排便)が週に3回未満」というこれら6項目の内、2項目以上を満たせば便秘であるとされています。また、これらの症状が6ヶ月以上前からあり、最近3ヶ月間は症状が続いている場合に慢性便秘症と診断されます。実際にはこの基準を満たしていなくても便秘のために日常生活に支障をあれば治療を進めます。

便秘の原因

①生活習慣

朝食を摂取しないと便秘になりやすいというデータがあり、不規則な食生活は便秘の原因となります。また、ダイエットや水分摂取が少ない事、食事を噛む回数が少ない事、運動不足、睡眠不足も便秘になりやすいと言われています。

②腸の長さ

腸が長い人は便秘になりやすい可能性があります。

③体型

やせ形の人の方が便秘なりやすい傾向があると言われています。

④心理的要因

不安症やうつ病の人に便秘が多いと言われています。

⑤加齢

⑥基礎疾患

糖尿病や脳血管障害など、病気の中には便秘になりやすいものがあります。さらに、便秘以外の病気で治療中の場合、薬の中には便秘を起こすものもあります。
また、大腸癌などの腫瘍で便秘になっている場合もあり、急な便秘や体重減少を伴う場合は特に注意が必要です。

検査

血液検査、便検査、レントゲン検査、CT検査、内視鏡検査などで便秘を起こす疾患がないかを調べます。また、大腸通過時間検査、排便造影検査、直腸内圧検査など便秘の病態診断のための専門的な検査もありますが、現状では保険適用されておりません。

治療

①生活習慣の改善

規則正しい食生活、食物繊維不足の解消、乳酸菌製品の摂取などで便秘が改善する可能性があります。また、適度な運動や腹壁マッサージも有効です。

②薬物療法

A)プロバイオティクス(整腸剤、ヨーグルトなど)

乳酸菌などのいわゆる善玉菌の効果で腸内細菌のバランスを改善することにより、排便回数や便形状、排出しやすさ、残便感、肛門部不快感などを改善すると言われています。

B)浸透圧性下剤(マグネシウム製剤、ラクツロースなど)

便の水分量を増やすことで便を軟らかくし、排便回数を増加させます。効果が出るまで数日かかる事もありますが、腹痛を起こしにくく費用も安いのが特徴です。マグネシウム製剤は多くの便秘の方が服用しておられますが、高齢者や腎機能の悪い方などは血中のマグネシウムが高くなり過ぎることもあり注意が必要です。
大腸を刺激することで腸管運動を促進、さらに腸からの水分吸収を抑制することで排便を促します。効果が高い上に早く効くため服用されている方も多いですが、長期連用することで耐性が出現(薬が効かなくなる)するため、将来的に便秘が悪化する可能性があります。よって、他の治療で改善がない場合や特に便秘がひどい時のみ使用することが推奨されています。

D)上皮機能変容薬(アミティーザ、リンゼス、グーフィス)

新しいタイプの薬です。腸の細胞に働きかけ便を軟らかくしたり、排便回数を増加させます。マグネシウム製剤や刺激性下剤との最大の違いは、長期に使用しても大きな副作用が無いという点です。

E)消化管運動賦活薬(ガスモチン)

腸の神経を刺激することで排便を促します。

F)漢方薬(大黄甘草湯、麻子仁丸、大建中湯など)

便秘に効果がある漢方薬はたくさんありますが、大黄を含むものは刺激性下剤と同様、難治性便秘になる可能性があるため長期の連用は避けた方が望ましいです。

さいごに

多くの方が便秘で悩んでおり、その治療法も様々です。外来診療をしておりますと、刺激性下剤を長期で服用されている方や、刺激性下剤と知らずに市販薬を飲み続けておられる方などをお見かけすることがあります。間違った治療は将来的に便秘を悪化させる可能性がありますので、是非医師に相談してください。