虚血性腸炎とは
医師:齋藤 慎一郎
下血で見つかる病気は多数ありますが、その中でも虚血性腸炎は比較的多く認められます。今回はこの病気について解説していきます。
虚血性腸炎とは
この病気は、大腸の末梢血管に虚血(血流障害)が起こり、炎症や潰瘍などが発生し、そのために下腹部痛や血液の混じった下痢などの症状が起こる病気です。原因としては、高血圧、糖尿病、高脂血症などによる動脈硬化(血管側の因子)と、便秘や腸の運動亢進(腸管側の因子)などが関与しているといわれています。
虚血性腸炎は女性の方が2~3倍多く発症し、大腸の中でもS状結腸や下行結腸といった左側の大腸に起こりやすいといわれています。
年齢でみると、50から70歳の方に多く起こりますが、若年者でもこの病気は発生し、高齢者より症状が軽い傾向があります。
この病気の原因を考えてみると、血管側の因子である動脈硬化などが認められない若年者にも発症することより、腸管側の因子がこの病気の本質的な原因であると考えられています。若年者発症にくらべて、高齢者の方が重症化する傾向があることより、血管側の因子が加わることで症状が強くなると推測されます。
虚血性腸炎には分類があり、一過性型、狭窄型、壊死型などに分かれています。
一過性型が70~90%と最も多く認められます。これは大腸の比較的浅い部分に炎症を認め、粘膜のむくみ、潰瘍形成、出血などが起こりますが、治療により数週間程度で治癒することがほとんどです。
狭窄型は大腸の炎症が一過性型より深い層まで起こり、数週間から数ヶ月の期間で大腸が硬く変化し、内腔が狭くなり狭窄が起こります。狭窄の程度によっては手術などの追加治療が必要となります。
壊死型は稀ですが血流障害により腸が壊死してしまい、腹膜炎が起こります。一過性型に比べて高齢者で動脈硬化のある方に多く、緊急手術が必要となる場合もあります。
虚血性腸炎の診断
この病気の診断としては、症状や既往歴などが大切です。たとえば、便秘時の下剤内服後に強い下腹部の痛みや下痢、その後の下血などが認められると虚血性腸炎を疑います。他に似た症状を起こす病気として、感染性腸炎、潰瘍性大腸炎、薬剤性大腸炎などもあります。
検査としては血液検査、便培養検査、腹部CT、大腸内視鏡検査などが行われています。血液検査では炎症の程度により、白血球やCRP値の上昇が認められます。
大腸内視鏡検査では大腸粘膜の縦に走る炎症が特徴的ですが、炎症の程度により検査所見も様々です。【写真1】では、大腸粘膜の表面に縦方向の赤い粘膜変化があり、比較的軽い虚血性腸炎を認めます。【写真2】では大腸粘膜の縦方向の赤みが先程より目立ち、白い線状の変化も認め、より強い炎症を認めます。【写真3】では大腸の半周に渡る血色不良を認め、さらに強い炎症を認めます。
また狭窄型のように大腸の内腔が狭くなった場合には、注腸X線検査(バリウム検査)で【写真4】の様に大腸の狭窄が認められます。
治療
治療としては腸の安静が大切であり、基本的には入院治療となります。腸の安静とは、食事を中止もしくは消化の良いものに替え、場合によっては点滴等を行って大腸を休ませることです。
一過性型の場合は、数日~1週間ほどで症状は改善し、そのまま数週間で治癒します。炎症が強い場合は、細菌による二次感染予防のため抗菌剤を使用することもあります。
炎症が大腸の深い層まで達している場合は、狭窄型に移行するものもあります。改善が乏しい場合には大腸内視鏡や手術による追加処置が必要となることもあります。
稀な壊死型の場合は、緊急手術が必要となります。
最後に
この病気は、動脈硬化等の血管側因子や便秘症等の腸管側因子が原因となっています。ですから、こういった因子を持っている方は虚血性腸炎という病気を繰り返す場合もあります。また、再発を繰り返すことで重症化するという報告もあるようです。
予防のためには、普段より基礎疾患が悪くならないように生活習慣病を改善することや、便秘症のある方は下剤や生活改善で排便を調節することが大切です。