潰瘍性大腸炎
外科副部長:前田頼佑
潰瘍性大腸炎について
第96代内閣総理大臣安倍晋三氏が患っていることでも有名な潰瘍性大腸炎。欧米諸国で多い病気ですが、日本でも平成22年度の集計で約11万7千人が登録されており、毎年約5千人ずつ増えています。
人間の身体には免疫が備わっており、細菌やウイルス等の外敵が侵入すると、この免疫が働き攻撃してくれます。ところが、潰瘍性大腸炎の患者さんの免疫は自分の大腸を外敵と認識してしまい攻撃します。その結果、大腸で炎症を起こし、びらん、ただれ、潰瘍を作ります。残念ながらこの異常な免疫の原因はわかっていません。食生活やストレス、感染症、遺伝などが関連すると考えられていますが、確定したものはないのが現状です。発症の年齢は15歳から35歳までが多いですが、小児や50歳以上で発症する方も珍しくはありません。また、男女差はありません。
1975年から厚生労働省の特定疾患に認定されており、潰瘍性大腸炎と診断された患者さんは治療費が公費で補助されます。
症状・検査
血便、下痢、腹痛が主な症状です。症状が重くなると発熱、体重減少、貧血などを伴い、場合によっては大腸以外の皮膚、眼、関節などにも症状が出ることもあります。
診断を確定するため、または病状を把握するために大腸内視鏡検査、血液検査などを行います。潰瘍性大腸炎に似ている病気を否定するために便検査も行います。大腸内視鏡検査では、大腸のどの部分に、どれくらいの炎症があるのかを調べます。血液検査では、炎症や貧血の程度を調べます。
治療
血便の程度や下痢の回数、血液検査、大腸内視鏡の結果などから、炎症がある部位や重症度を判定して治療方針を決定します。重症のときや、治療の効果が弱いとき、または脱水、貧血などで全身状態が悪いときは入院の上で治療することになります。
5-ASA製剤(ペンタサ、アサコール、サラゾピリン)
5-アミノサリチル酸(5-ASA)には腸の粘膜の炎症を抑える働きがあります。5-ASA製剤は潰瘍性大腸炎の基本薬で、ほとんどの場合で最初に使用されます。経口もしくは経肛門的に使用することが可能です。5-ASAはそのまま内服すると小腸で吸収されてしまうため、大腸まで届くように工夫された製剤が使用されています。
炎症が落ち着いた後も、5-ASA製剤の内服をしっかり続けることが再燃(再び症状が出ること)予防、大腸癌予防にとても重要です。
ステロイド
正式には副腎皮質ホルモンと言われ、強力に炎症を抑える作用があります。経口薬、経肛門薬がありますが、炎症が重度の場合には注射で使用することも可能です。むくみ、脱毛、糖尿病、骨粗鬆症、精神変調など様々な副作用があるため、長期に大量使用はできません。よって、一度ステロイドで炎症を落ち着かせてから薬を徐々に減らし、最終的には中止します。自己判断で中断することは非常に危険です。
免疫調節薬 (イムラン、ロイケリン、サンディミュン、プログラフなど)
過剰な免疫を調節する薬です。ステロイドが効かない時や効果が弱いとき、またはステロイド中止で悪化するような時に使用します。
抗体製剤 (レミケード)
体内で作られるTNFαという炎症物質を抑制します。注射薬で最初に注射してから2週後、6週後に投与し、その後は8週間隔で使用します。
血球成分除去療法 (GCAP、LCAP)
血液中には白血球という免疫の働きをする細胞があります。潰瘍性大腸炎の腸では活性化した白血球が腸の粘膜を攻撃していると考えられています。この治療法は、血液を一旦体外に取り出し、活性化した白血球を選択的に除去する装置に通して取り除いた後に、血液を体内に戻す方法です。大きな副作用がないのが特徴です。週に1回、最高10週行われますが、重症の場合には週に数回を集中的に行うことでより効果が得られます。
手術療法
大出血や腸管穿孔(腸に穴が開く事)などが起きた場合、または手術以外の治療法で改善しない時は手術が選択されます。手術は大腸を全て摘出し、残った小腸と肛門(もしくは肛門管)をつなぐ方法が一般的です。1度に手術を完結できない場合は、2~3回に分割して手術することもあります。
最後に
潰瘍性大腸炎は原因不明のため、今のところ完治に至る特効薬はありません。治療で症状が改善しても再燃する病気です。また、症状が改善しても内視鏡では炎症が残っていることもあり、炎症が続くことは大腸癌のリスクにもなります。ただし、適切な治療・検査を受ければ寿命は健常人と同様と言われており、仕事や家庭生活も普段通り過ごす事ができます。食事も病状が落ち着いていれば神経質になることはありません。女性の患者さんは妊娠・出産も可能です(希望されるときは主治医と相談が必要)。