以心会

機能性ディスペプシア(FD)

医師:前田頼佑

機能性ディスペプシアについて

「胃が痛い」、「胃がもたれる」、「食べるとすぐに満腹になってしまう」、こういった症状はありませんか?内視鏡などの検査をしても異常なし。「こんなに症状があるのに何もないなんておかしい」、「本当は癌なんじゃ…」と思われた事はありませんか? それは機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia、以下FD)かもしれません。聞き慣れない言葉ですが、ディスペプシアとは胃や十二指腸から生じる様々な症状を表す言葉で、比較的新しい概念です。胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃癌などの必ず治療が必要な病気はないですが、つらい症状のために生活の質を落としてしまう病気です。日本人の6~10人に1人がFDであるとの報告があり、またみぞおち辺りの症状で受診された患者様の約半数がFDであるとも言われています。今回はこのFDについてお話しさせていただきます。

原因と症状

ストレスなどの心理的・社会的要因が関与すると言われておりますが、ストレスは個人差が大きく科学的に検証が難しいため詳しいことは分かっていません。FDにはいくつかの要因が複雑に絡み合って症状を起こしています。

①胃の運動異常

正常な胃は食べ物が入ると胃の上部がふくらみます。次に、胃は波打つように動き食べ物を攪拌し胃液で消化します。最後に、消化された食べ物を十二指腸へ送り出します。FDではこの一連の運動が傷害されます。胃がふくらまなければ食べ物が入らず「食べてすぐの満腹感、食欲不振」につながります。また、十二指腸に上手く送り出せなければ「食後の胃もたれ」を感じます。

②胃・十二指腸の知覚過敏

胃酸は食べ物を消化する強力な酸です。この胃酸の刺激に対して胃・十二指腸が過敏になり「胃の痛み」を引き起こしていると考えられています。

検査

FDは潰瘍や癌といった病気が無いことが前提なので、その確認をすることが重要です。「この症状はストレスのせいだ」と安易に考えるのは非常に危険です。症状だけでFDと診断してしまうと、潰瘍や癌を見過ごす可能性があるからです。よって、内視鏡検査を受けることを強くお勧めします。また、みぞおち辺りの症状は胆石や膵癌といった胃周囲の内臓の病気の可能性もあるため、超音波検査などを行う場合もあります。このような検査で症状を起こす原因がないと分かって初めて、FDと診断されます。

治療

先述の通りFDは様々な要因が絡み合っており原因も明らかではないので、誰にでも効果のある特効薬はありません。どの薬が合うかは患者様によって違いますし、症状が改善するまでの時間も人それぞれです。これを御理解いただくことが治療への第一歩となります。

①酸分泌抑制薬

胃酸の分泌を抑えることで、酸に過敏になっている状態を和らげる効果があると考えられています。

②運動機能改善薬

胃の運動を正常に近づけることで、「満腹感」や「胃もたれ」を改善します。

③漢方薬

①、②で症状が改善しない場合は漢方薬が有効な場合があります。

④精神科的治療

FDではストレスなどの心理的要因が原因となっている事もあるため、抗不安薬や抗うつ薬が有効な場合があります。

ピロリ菌とFD

ピロリ菌が原因でFDの症状を起こすことがあります(この場合、厳密にはFDとは診断されません)。ピロリ菌の除菌によって症状が改善することがあるので、内視鏡で胃炎があればピロリ菌検査と除菌をお勧めします。ただし、除菌によって必ずしも症状が改善する訳では無いので注意が必要です。

最後に

当院ではFDの症状で苦しまれている方がたくさん受診されます。大きな病気が無いことを確認し、安心することが初めの一歩です。治療には時間がかかることもありますが、前向きに治療していきましょう。