大腸がんの化学療法
大腸癌の化学療法
大腸癌の化学療法(抗癌剤治療)は大きく二つの目的に分けられます。一つは、術後補助化学療法と呼ばれるもので、手術で癌を切除したあとに、再発を抑制するために行うものです。もう一つは、手術にて完全切除ができなかった場合や、手術後に再発してきた場合(再発進行癌)に行う化学療法です。それぞれに使用される薬剤などについてお話しします。
術後補助化学療法
手術で目に見える癌をすべて取りきっても、何割かは再発をしてしまいます。目に見えない癌が残っているからです。術後補助化学療法は治る手術をした後に、残っている目に見えない癌を攻撃して、再発を減らす目的で行われます。I *II期の結腸癌でも、約70%程度は手術治療だけで完全に治癒しますが、補助化学療法を追加することにより、さらに7〜8%の人が治癒することができます。
ステージ分類
- 0期:がんが粘膜にとどまるもの
- Ⅰ期:がんが大腸壁にとどまるもの
- Ⅱ期:がんが大腸壁を越えているが、
- :隣接臓器におよんでいないもの
- Ⅲ期:リンパ節転移のあるもの
- Ⅳ期:腹膜、肝、肺などへの
- :遠隔転移のあるもの
以前は5-fluorouracil(5-FU)と、その効果を高めるロイコボリン(LV)という注射薬を併用する治療法が一般的でしたが、UFTとLVの併用療法や、TS-1(S-1)、カペシタビンなどの内服薬が使用可能となり、より簡便な治療ができるようになってきました。ただ、治療には経済的負担が大きく、副作用が起こる可能性もありますので、補助化学療法を行うか行わないかは、患者さん自身が状況を理解したうえで、決定することが望まれます。
再発進行癌の化学療法
術後補助化学療法は、再発進行癌に行うものよりも、一般的に簡易な方法で、副作用の軽度なものが選択されますが、再発進行癌に行う化学療法は、補助化学療法に比べて、積極的に癌を治療するために、多少の副作用を伴っても抗癌作用の強いものを、選択する場合が多くなります。
再発進行大腸癌に対する化学療法は、近年急速に進歩をしてきました。これまでは1956年に合成された5-FUしか有効な薬剤がありませんでしたが、1990年代後半にはイリノテカン(CPT-11)、UFT+ロイコボリン、TS-1、オキサリプラチン(LOHP)といった薬剤が登場し、進行再発大腸癌における生存期間も飛躍的に延びてきました。そして、最近の話題は2007年に使用可能となったベバスチマブや、2008年に使用可能となったセツキシマブといった分子標的薬とよばれるものです。5FUやUFT、TS-1、イリノテカン、オキサリプラチンなどといった抗癌剤は、作用機序が異なるものの、細胞が増殖するのに不可欠なDNAの合成を阻害することによって抗癌作用を発揮する薬剤です。それに比べてベバスチマブやセツキシマブは、癌の血管新生を阻害することにより、癌の成長や転移を抑制します。癌は正常の細胞よりも増殖能が高く、急速に増大するため、栄養供給源として周囲に新しい血管を作って成長します。これらの薬は、その血管新生を妨げることによって、癌の栄養供給源を絶ち、増殖を抑えます。いわば兵糧攻めにするわけです。これらの薬剤を組み合わせて治療を行いますが、一般的に行われている治療法は、外来通院でも可能です。しかし、48時間薬剤を注入する必要があり、皮下に薬剤を注入する、ポートと呼ばれる器具を埋め込む必要があります。現在、さまざまな臨床研究が行われており、術後補助療法で使用できるカペシタビンが、近い将来進行再発癌にも使用可能となります。これにより、ポートの埋め込みが必要なくなる、より簡易な治療が可能になると期待されています。
大腸癌の化学療法は日進月歩です。当院では臨床研究の結果により裏付けられた、確かな治療法をより安全に提供できるよう、心がけています。