以心会

大腸憩室症

医師:村瀬寛倫

大腸憩室症について

大腸憩室は内視鏡や注腸X線検査を行うと頻繁に見られる疾患で、10人中4人ほどの方は持っていると言われています。憩室とは消化管壁が腸の外側に向かって風船状に突出している状態で、大腸に限らず消化管の様々な部位に生じます。大腸の中では盲腸や上行結腸(30歳~40歳代)、S状結腸(高齢者)に憩室ができやすいと言われています。


大腸内視鏡

注腸X線検査


憩室の原因


大腸横断面図

憩室は、腸管壁の強さと腸管内圧のバランスが崩れたために生じます。大腸には細かな血管が壁を貫くように走行しており、血管貫通部は圧力に弱いと言われています。欧米型の食生活で食物繊維の摂取が低下し、糞便量が少なくなった結果、糞便を送り出すために腸管運動が過度に亢進し、腸管内圧が高まります。圧に耐えられなくなった血管貫通部は外に膨らみ憩室が出来上がります。大腸憩室は筋層(消化管壁は粘膜、粘膜下層、筋層、奨膜という4層構造です)を貫くように突出するため壁が薄くなっており、トラブルが生じやすくなっています。


憩室による症状


憩室があっても大半は無症状のまま経過します。憩室そのものの症状ではありませんが、腹部鈍痛や腹満感、便通異常など異常な腸管運動が起因する症状や、出血や憩室炎、穿孔、膿瘍など憩室自体のトラブルとして生じる症状があります。

憩室出血


憩室から出血するのは憩室底の血管が刺激により傷ついてしまうためで、腹痛や下痢などを伴わず、突然の下血で発症することが特徴です。糖尿病・高血圧症・虚血性心疾患を治療中の方や、抗血栓薬や鎮痛薬(NSAIDs)を内服中の方に起こりやすいので、これに該当する方は注意が必要です。


診断には造影CTや大腸内視鏡検査が用いられます。当院では主に大腸内視鏡を行っています。大腸内視鏡では同時に治療が可能であることと、大腸癌や出血性腸炎などの他の下血の原因とも区別がつけられることが利点です。しかし憩室は多発していることが多く、出血した憩室が分かりにくいこともあるため、補助的に造影CTを使うこともあります。


治療は入院して点滴と絶食による腸管安静が基本で、出血が軽微であれば、これだけで自然に止血が得られることもあります。しかし、出血を繰り返したり、稀ですが大量出血することがあるため、慎重に経過観察する必要があります。内視鏡を行い、憩室からの出血を認めた場合は、医療用のクリップを用いて止血します。


憩室炎


憩室に糞便がたまり閉塞すると、内部で細菌が増殖したり、粘液が充満して憩室に炎症が生じます。ほとんどは抗生剤治療によって軽快しますが、30%ほどの確率で1年以内に再発してしまうとも言われています。


憩室の壁は薄いので、炎症が非常に強いと穿孔(消化管壁に穴があくこと)を生じ、腸の周囲に膿瘍を形成したり、さらには腹部全体に炎症が広がることもあります(汎発性腹膜炎)。汎発性腹膜炎まで進むと、命に関わる危険があります。そのため、穿孔が生じた場合は、外科手術が必要になる可能性が非常に高いです。手術方法は炎症の起きた場所を含め腸管切除をしたり、人工肛門造設術などがあります。


また炎症が繰り返された結果、腸の狭窄(狭くなること)が起き、膀胱や膣への瘻孔(他臓器との交通路)を形成することもあります。瘻孔が生じた場合は炎症が落ち着いた後に、瘻孔先の臓器とともに瘻孔を切除する必要があります。

最後に

憩室は無症状なまま経過することが多いため必要以上に恐れる必要はないのですが、一旦トラブルが起きるとその状態・重症度は様々であり、治療法を慎重に選択する必要があります。治療の際には担当医とよく相談しましょう。