脂肪肝・NAFLD
副院長:奥嶋一武
脂肪肝・NAFLD
近年、我が国や欧米などの先進国では食事の欧米化など生活環境の変化によって肥満が増加しています。それに伴い、糖尿病や脂質異常症(血中のコレステロールや中性脂肪が異常値となること)、高血圧など動脈硬化の原因となる疾患が増加し、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患のリスクファクターが複数認められるメタボリックシンドロームが問題となっています。そして、メタボリックシンドロームが肝臓に現れた病変が脂肪肝や非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liverdisease : NAFLD)と呼ばれる疾患です。今回はこの疾患について述べます。
脂肪肝とは、肥満やアルコールの過剰摂取などが原因で肝臓に脂肪が蓄積した状態のことを言います。我が国では検診を受けた方の約30%に脂肪肝が認められており、最も有病率の高い肝臓病となっています。アルコールの過剰摂取によって肝臓の炎症や機能障害が起こることは以前より知られており、アルコール性肝障害の方の多くに脂肪肝を認めます。飲酒量としてはエタノール換算で男性は1 日3 0 g以上、女性は1日2 0 g 以上の飲酒をし、肝臓に障害が現れた状態をアルコール性肝障害と呼んでいます。一方、アルコールを飲まない方や時々しか飲まない方にも脂肪肝を認める場合があり、これをNAFLD と言います。NAFLD は、主に肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などを基盤に発症しています。
NAFLD は、非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver : NAFL) と非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis : NASH)の2つに分類されています。NAFL は病態がほとんど進行しないと考えられており、肥満の治療としての生活習慣の改善は必要ですが、特に肝臓の治療は行いません。一方、NASH は肝臓の組織に障害(壊死、炎症、線維化など)を認め、NAFLDの重症型と位置づけられています。そして、肝硬変や肝臓癌の原因となるため肝臓の治療が必要となります。
2011 年、日本ではNAFLD は約1000 万人、NASH は約200 万人の方が罹っていると推計しています。しかし、その後も増え続けているため、最近では約30%の日本人がNAFLDを罹っていると想定されています。そして、2020 年には、肝移植の原因の第一位がNASHになるだろうとの予測もあります。人間ドックの集計では、生活習慣病関連項目のうち、耐糖能異常(糖尿病の指標です)、高血圧、脂質異常症、肝機能異常が年々増加しています。これらの生活習慣病患者の増加は、NAFLD やNASH の増加につながるため、早い段階での生活習慣の改善と治療の開始が重要となってきています。とくに体重の増加やメタボリックシンドロームのある方は、NAFLD の発症率は1 年で10%と推定されています。よって、肥満の改善やメタボリックシンドロームの治療は非常に重要です。
NAFLD の診断方法について述べます。最初は脂肪肝があるか否かを判断することから始まります。脂肪肝がなければNAFLD ではありません。これには肝臓の超音波検査が最適です。超音波検査で脂肪肝を認めた場合、アルコールを飲まない方で、血液検査で肝障害(AST やALT の異常高値など)があるとNAFLDの疑いが出てきます。そして、血液検査でB型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎や自己免疫性肝疾患などの他の肝臓病がないことを確認した時点で、NAFLD と診断します。次に、NAFLD のうち、臨床的に問題にならないことが多いNAFL か、治療が必要なNASH かを区別しなければなりません。これには肝生検という検査が必要です。局所麻酔を行い、お腹から肝臓の組織を採取するための専用の針を肝臓に直接刺して、肝臓の組織を少量採取し、顕微鏡で調べる検査です。当院では、2日間の検査入院で行っています。この結果でNAFL かNASH かの診断が確定します。
NAFLD / NASH の治療について述べます。治療の原則は、食事・運動を含む生活習慣を是正して肥満を改善し、内臓脂肪を減少させることです。7%以上の体重減少で、肝臓に蓄積した脂肪が減少し、炎症の改善も見られるようになります。そして、NAFLD の背景にある糖尿病・高血圧・脂質異常症などの治療も非常に重要です。薬物療法はいくつかが試みられていますが、現在のところ確実な治療薬はありません。高度の肥満があるNASH に対しては減量手術が有効で、欧米では日本よりも普及しており、高い治療効果が報告されています。また、NASH の進展により肝硬変からさらに肝不全に移行した場合は肝移植が行われることもあります。
NAFLD / NASH の患者の予後については、前述したようにメタボリックシンドロームがあるため動脈硬化による心血管障害や脳血管障害が大きな影響を及ぼします。また、長期間にわたる肝臓の慢性の炎症によって肝硬変へ進展します。また、肝臓に癌が発生することもあります。NASH による肝硬変からの肝臓癌は、年率2%と言われており、定期的に超音波検査やCT などでチェックする必要があります。NAFLD はまだ新しい病気であり、現在も多くの専門施設で研究が進められています。将来、新しい診断方法やより効果的な治療法が開発されることを筆者も期待しています。